止まったまま、全力疾走

止まっているのに、疲れている夜

家に帰ったあと、

動いていないはずなのに、妙に疲れている夜がある。

椅子からほとんど立ち上がっていない。

外にも出ていない。

誰とも話していない。

それなのに、

脳だけが走っている感覚があった。

YouTubeを開いて、

関連動画を次々と再生していた。

AI、投資、仕事術。

気づけば7本目だった。

静かな部屋で、

エンジンだけが空回りしている。

体は停止しているのに、

頭の中だけが高速道路を走っていた。

信号機はない。

情報は増えるのに、決断は増えない

スクロールするたびに、

知識は増えていく。

「なるほど」と頷き、

「それは知らなかった」と感心し、

一瞬だけ、自分が前に進んだ気になる。

メモアプリを開いて、

何行か書き残す。

でも、

何かを選んだわけではない。

情報は増えたのに、

決断はひとつも増えていなかった。

これは勉強というより、

現代のウインドウショッピングに近いのかもしれない。

表面だけを撫でている

動画を3本見れば、

本を読んだ気になる。

まとめ記事を読めば、

実践した気になる。

知っていることが増えると、

動いた気になる。

でもそれは、

深く触れたというより、

ただ表面を撫でていただけなのかもしれない。

もしかしたら、

何かを差し出さなければ、

戻ってくるものも浅いままなのだろうか。

時間なのか、

集中なのか、

それとも何かを諦めることなのか。

何を失えばいいのかは、まだ分からない。

ただ、

決めなくていい理由だけを、

丁寧に集めていた気もする。

加速していたのは

ふと、思った。

加速していたのは、

好奇心じゃなかったのかもしれない。

置いていかれたくない。

遅れたくない。

選択を間違えたくない。

その焦りが、

情報を食べ続けていた。

アクセルを踏んでいるつもりで、

実際は空転しているタイヤの音だけが、

静かな部屋に響いていた。

盤面だけを睨み続けて

時計を見たら、午前2時を過ぎていた。

何も決めていないのに、

妙に疲れている理由が、少しだけ分かった気がした。

動いていないのに、

全力で走っていた。

止まったままの全力疾走。

一手を指していないのに、

盤面だけを睨み続けていた。

加速していたのは未来じゃない。

迷いだったのかもしれない。

まだ、何も決めていない。

残り一手は、

まだ盤上にある。

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