すごいですね
「絵、うまいですね」
そう言われたとき、
反射的に「そんなことないです」と返していた。
嬉しくないわけじゃない。
でも、
素直に受け取るのが、少し怖かった。
描いて、と言われた
「また描いてくださいよ」
軽い調子だった。
冗談みたいな一言だった。
でも、その言葉は
思ったより重く残った。
描けばよかったのに、
描かなかった。
時間がなかったわけでも、
環境がなかったわけでもない。
ただ、手を動かさなかった。
受け取るという選択
褒められるのは、
ただの言葉だと思っていた。
でも本当は、
小さな責任が生まれる瞬間だったのかもしれない。
「うまいですね」を受け取るということは、
「描ける人」として立つこと。
それは、少しだけ覚悟がいる。
可能性のままで
描かなければ、
評価は固定されない。

次に出す一枚で、
期待を裏切るかもしれない。
だったら、
描かない方が安全だ。
可能性は、
可能性のままが一番きれいだ。
人は想像することで、美しさを感じる。
指さなかった一手
あの夜、
筆は動かなかった。
何も失っていないはずなのに、
何かを逃した気もしている。
褒められたことよりも、
描かなかったことの方が、
静かに残っている。
残り一手は、
あのときのまま、キャンバスの上に置いてある。

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