翌日は、普通に始まった。
目覚ましは鳴り、
いつもの時間に起き、
いつもと同じ朝食を手に取って、
昨日と同じ服に袖を通した。
昨夜の出来事が、
何かを変えた形跡は、
どこにもなかった。
外に出ると、
街はいつも通りだった。
いつもの道、
いつもの人、
いつもの――。
電車は遅れず、
人の流れも変わらない。
誰も、
昨日の僕の迷いなど知らない。
選ばなかったことは、
世界にとっては、
出来事ですらなかった。
改札を抜けた時、
正直、
少し安心していた。
何も変わっていない。
何も失っていない。
昨日までの生活が、
そのまま続いている。
判断しなかったことが、
何の問題も起こしていない事実が、
僕を静かに肯定していた。
それでも、
胸の奥に引っかかるものがあった。
思い出したくても思い出せない、
あの映画のタイトルのように。
後悔でも、
不安でもない。
ただ、
何かを置き忘れたような感覚。
確認しようとしても、
形がなく、
名前もつけられなかった。
昨日を繰り返すことは、
何もしないこととは、少し違う。
変わらないことを、
もう一度選び直しているだけだ。
意識しないまま、
同じ一日を再生する。
それもまた、
ひとつの選択なのだと思った。
ラスト
何も選ばなかった日は、
昨日の続きを、
そのまま再生するだけだった。
現実世界に、
「巻き戻し」ボタンはない。
世界は動かない。
動かなかったのは、
僕の方だった。

