夜の書店で、
一冊のAI関連の本が目に入った。
時計を見ると、23時を少し回っていた。
もう買い物をする時間じゃない。
そう思ったはずなのに、
その棚の前で足が止まった。
欲しかったのは、
知識だったのか。
それとも「置いていかれていない感覚」だったのか。
その瞬間、
周りのランナーを追い抜いているような錯覚に浸っていた。
人気の少ない書店の真ん中で、
はっきりしないまま、
手だけが本に伸びていた。
衝動買いはやめよう。
一度、立ち止まろう。
そう自分に言い聞かせて、
本を棚に戻した。
なにも今すぐ買わなくてもいい。
売り切れるものでもない。
家に帰ってから調べればいい。
レビューも読めるし、
もっと自分に合った一冊が見つかるかもしれない。
その判断は、
冷静で、正しくて、
いかにも大人っぽい選択に見えた。
今までの自分よりも、
一歩前へ進んでいる。
そんな気がしていた。
帰宅して、
軽い気持ちでスマホを開いた。
まずは行動あるのみ。
本のタイトルを検索して、
関連動画を一つ再生した。
気づけば、
次の動画、
その次の動画へと流れていった。
理解している気になって、
分かったつもりで、
メモも取らないまま、
時間だけが静かに削れていった。
時計を見た時、
午前3時を回っていた。
何かを学んだはずなのに、
何も掴めていない感覚だけが残っていた。
眠気と一緒に、
「今日は結局、何をしたんだろう」という疑問が浮かぶ。
本は買っていない。
決断もしていない。
残った事実は、
ただ、調べただけだった。
立ち止まったことは、
間違いじゃなかったと思う。
衝動に流されなかった。
ちゃんと考えた。
調べた。
でも、
一手を指したかと聞かれたら、
答えに詰まる。
あの夜にあったのは、
選択ではなく、
選択のふりをした時間だったのかもしれない。
そう思いながら、
瞳を閉じた。

