正解だったと言い切れない夜

終盤|振り返り

静かすぎる帰宅

家に帰ると、いつもより静かに感じた。

玄関の明かりをつけた瞬間、
外のざわつきがすっと遮断される。

さっきまでいたスーパーの空気が、
まだ耳の奥に残っていた。

惣菜を買わなかったことは、
きっと正解だった。

頭では、そう分かっている。

それなのに、
胸のあたりが落ち着かない。

何かを置いてきたような、
そんな感覚だけが残っていた。


冷蔵庫の中の現実

冷蔵庫を開ける。

めかぶ、キムチ、納豆、サラダチキン。

見慣れた食材が、
いつも通り並んでいる。

特別なものは何もない。

でも、その「何もなさ」に
少しだけ安心する自分もいる。

「そうだ、ダイエットしてたんだ」

思い出した瞬間、
胸の奥がほんの少し軽くなった。


言い聞かせるということ

もしあのまま惣菜を買っていたら。

これまで頑張ってきた自分に、
少し泥を塗る気がしていた。

一度くらいならいい。
今日だけならいい。

その言い訳を、
何度使ってきただろう。

だから、買わなかった。

正解だった。

そう何度も心の中で繰り返す。

繰り返さなければならないということは、
まだ迷いが残っているということでもある。


静かな食卓

箸を口に運ぶ。

味は、いつも通りだ。

ちゃんと美味しい。

でも、今日は静かだ。

テレビもつけず、
咀嚼の音だけが部屋に小さく響く。

その静けさの中で、
あの声がまた聞こえる。

「今日も頑張ったんだから、
少しくらい贅沢してもいいんじゃない?」

完全には否定できない。

モチベーションという名の肥料が、
人には必要なのかもしれない。


選び直せない時間

時計を見ると、午後10時を少し回っていた。

もう一度スーパーに戻るには、遅すぎる。

選び直すことはできない。

選ばなかった手は、
もう指せない。

深夜のブランコのように、
気持ちだけがゆっくり揺れている。

本当に、買わなかったのは正解だったのだろうか。

買った先に。
買わなかった先に。

ぼくは何を見つけるのだろう。

答えはまだ出ない。

ただひとつ確かなのは、

選んだ夜は、
静かだということだけだった。

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